幻の黒猫

2000年の日記もどき:3月

3.4.2000

[book][こ]「マリア様がみてる ヴァレンティーヌスの贈り物:前編」今野緒雪:コバルト文庫(3/4)

2000/03/04

シリーズ5冊め。今回は、バレンタインデーっす!うっき〜!!(<壊れ気味)

相変わらず面白い。そして、よく出来ている。以前このシリーズについてコメントしたが、今回は特に「わたし」をちゃんと主張し、その上で他者とコミュニケートすることの大切さがテーマとなっている。そしてそれが鬱陶しくなくエンターテイメントの影に上手に隠されている。

キャラクター1人ひとりが薄っぺらくなく、存在感を感じさせる。例えば、これまでしばしばちょっかいを掛けてきていた典型的な敵役だった新聞部の部長が、主人公の祐巳のトラブルに(自分は仕事で忙しいにもかかわらず)救いの手を差しのべるところのように。

[book][ま]「破妖の剣外伝5 魂が、引きよせる」前田珠子:コバルト文庫(3/4)

2000/03/04

あの…そろそろ最終章に…。

3.5.2000

[お]■「多重人格探偵サイコ 雨宮一彦の帰還」大塚英志:講談社ノベルズ(3/5)

消費されることを前提とした小説には速度が必要だ、と語っていたわりに続きがでねぇ〜なぁと思っていたら、新刊はいきなり講談社から出版された。角川とケンカしたんですと。でもマンガは続くのね。

あらかじめ失われた過去を語ると言う体裁をとっているせいか、物語(そしてこのシリーズ)全体に喪失感が漂っていて、それが静けさを生み出している。先行したマンガのメディアミックスの一環としてスタートした小説のシリーズなのだが、筆力の差とでも言うのだろうか、そこらのノベライズ作品とは一線を画すものがある。

今回は日本赤軍がストーリの重要な仕掛けとなっており、「終わっていない昭和」や「まつろわぬ民」について繰り返し語ってきた大塚英志の作品らしさが増している。

そ〜いえば、ルーシー・モノストーンって、創作された架空の人物だったんだねぇ。つい最近知ったよ。いやぁ、すっかり騙された。(<中古レコード店で、他のレコードを探すついでとはいえルーシー・モノストーン作品を探した男)

3.9.2000

[く]■「TRAIN+TRAIN 2」 倉田英之:電撃文庫 (3/9)

シリーズ2作目。巨大な列車が校舎となり、1年間惑星全土を縦断しながら勉学にいそしむという特殊な学園で、今回礼一は生徒会長に選出されてしまった。礼一が学園全体をまとめようと悪戦苦闘している時、地震で崖から崩れ落ちた巨大岩石が列車に迫りつつあるという情報が知らされる。このままでは列車は崩壊、学園は解散してしまう。そんな危機の中、礼一は…。

Boy meets Girl で、少年の成長物な物語にしたいと言う作者の考えは伝わってくる。しかし、いかんせん話が薄い、薄すぎる!内容も読後感も1冊がちょうどTVアニメ1話分と考えてちょうどいいと思う(本がうたうような「映画」というには、ちょっと無理があるぞ)。なので、これ1冊で評価するのは非常に難しい。テンポやノリは好きなので、早く続き出してね。

3.20.2000

[む]■「神の子どもたちはみな踊る」村上春樹:新潮社(3/20)

高校生のころからいまだ変わらず My Favorite な作家村上春樹さんの新作。短編集。

すでに色々な雑誌や新聞に書かれた書評を読んだ人も多いと思うが、今回の小説はよい。阪神大震災を題材にした短編集だが、それ自体は直接には書かれていない。しかし、だからこそかえって死の気配と喪失感が物語全体に漂う。その中に、村上春樹にしては珍しく生きることを指向する意志の力が確かにある。

初期短編集のようなポップさも、ねじまき鳥クロニクルの分厚い斧のような圧力感もないが、力に満ちた作品である。

3.25.2000

[book][お]「月の裏側」恩田陸:幻冬舎 (3/25)

2000/03/25

このところ出版ラッシュな、恩田陸さんの最新作(かたつむりの牙はまだ?)。海外の古典SF「盗まれた町」のオマージュらしい。キングの「呪われた町」と小野不由美の「屍鬼」の関係がそうであるように、先行作品がいかにも西欧的、人間万歳!な勧善懲悪の造りであるのに比べて、善悪正邪の区別のはっきりしない、それゆえに深みのある物語となっている。

福岡県柳川がモデルな町を舞台に、町の住人が外見はそのまま次第にえたいのしれない「なにか」と入れ替わっていく侵略SF物であり、SF好きなら同種の作品を幾つも挙げることが出来るだろう。ただその大半が最終的に侵略者との対決に物語が進むのに対して、この話では入れ替わる「なにか」が何なのかすら、最後まで分からない。自分が「いれかわって」しまったのかどうか分からずに鏡で自分の顔を確かめるシーンは、作者の手管のうまさもあって恐い!人間の「個」が喪失し全体で意識を共有するひとつの存在となるであろう結末は、避けて通ることの出来ない進化の過程のようでもあり、ある種の救いとしても書かれている。BH85とは正反対の終わり方ですな。

読み終わった後しばらく意識が丸ごともってかれてしまった。小説を読む醍醐味を久々に味あわせていただきました。ごちそうさま((c.)京極夏彦)。

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