一作目を読んだときも思ったんだけど、どうもこのシリーズを読んだ感想が僕は他の人と違うらしいです。Google で検索してみると、「透明感がある、まったりとしている、静かな雰囲気」などなど、物語全体のおだやかな雰囲気が作品の個性として評価されているようです。まあそれは自分も認めるところなのですが、ぶっちゃけ”雰囲気だけしかない”作品だなぁ、と思っていました。ただそれだけならわざわざ感想を書こうとは思いませんが、今回 p262- のクロハとの対話を読んで、どうもこの作者はわざと”中身の無い”物語としてこの作品を書いているような気がしてきたのです。それが面白いと思い、感想を書いてみることにしました。
「七姫物語」といいつつ7人の姫たちのうち1人を除いては偽者である(らしい)と言うこと自体人をくったような設定です。この作品の主人公、7人目の姫である空澄(カラスミ)(*1)も、元は孤児であり、拾われ、姫として仕立て上げられた存在です。
カラスミにとっては、自分を拾ってくれたテンとトエという2人が全てでその他のことは”どうでもいい”ことなんですね。なので、戦記ものの体裁をとりながら都市同士の争いは後ろに置かれ、姫としての義務も放棄した街中でのまったりとした生活がメインの話となるわけです。
カラスミを担ぎ上げたテンとトエの2人も、”天下を獲る”ということをゲームとしてとらえています。「失敗すれば逃げればいい」とカラスミに言い、その言葉通りにこれまで幾度も成り上がってはしくじって都市を流転したらしいという過去があるようです。
そもそも、この都市同士の争い自体が意味のないものだと、作中語られています。すべては、シンセンという大陸の片隅の小さな国での出来事であり、いずれ中原から侵略の手が伸びてくることははっきりと分かっている。そんな世界での話なのです。
唯一の真の姫とされる黒曜(*2)は、いずれ来たる中原からの侵略を防ぐために他の都市を倒してでも国を統一しようと考えています。カラスミ達が無邪気に行っていることと理念は正反対ながら、やろうとしている事はほぼ等しい。そこにこの作品の妙があるような気がします。