幻の黒猫

2000年の日記もどき:7月

7.1.2000

[book][に]「依存」西澤保彦:幻冬舎(7/1)

2000/07/01

なかなか手に入らなくて、本屋をハシゴしましたとも。ええ。やっとこさ入手した、なぜか新刊のたび出版社が変わる匠千暁シリーズの最新作。

メインのストーリーの間にある程度独立した事件が挟まれる、連作長編形式のミステリー。テーマは一貫しており、それは「歪んだ愛情」。最近作者が繰り返し語ってきた「過剰な母性愛」の集大成とも言える物語である。

うひ〜、重たい内容〜。「永遠の仔」も真っ青ですな(汗)。個人的に最近はやりのトラウマ小説には?であり、この展開は残念でもあるのですが…。てっきり酒飲み4人組による赤川次郎風キャラ立ちユーモアミステリーシリーズと思っていたので、ここ数作の怒涛の展開にはびっくりっす。タックとタカチがこうなるとわ!!解体諸因でその後のタックを知っているだけに、ううう、早く続きを…(今新刊が出たばっかりやっちゅうねん)。

初めてこのシリーズを読む人は、いきなりこの本から読むことはお勧めしません。「彼女が死んだ夜(角川文庫)」から読んでみるのが良いかと。

7.2.2000

[book][ふ]「アビシニアン」古川日出男:幻冬舎(7/2)

2000/07/02

「13」、「沈黙」で本好きをうならせた古川さんの第3作。前2作があらゆる要素を盛り込んだ重厚長大な大作だったのに比べて、今作はワンアイディアでさらっとかかれた長めの短編といった赴き。

ありがちな恋愛小説になっちゃったなぁ、というのが率直な感想。もちろん良く出来てはいる。だけどこういった小説の書き手は他にたくさんいるよね。せっかくの才能がもったいない気がする。1年2年は待ちますから、ずっしりヘビィな他の人には書けないような物語を書いてほしい。それじゃ作者の生活がなりたたないか?

追記:(1.4.01)
などとたわけたことを初読時には書いているが、この小説のどこを読んだというのだ?>俺。この小説は、短いながらも過去の長編に見られた死と再生のテーマがはっきりと描かれている。古川さんの作品は、どれも主人公がいったん儀式的に死を迎え甦ることによって特殊な力を得る。その”死ぬ”までの過程の濃厚さが面白い。「13」での幻覚キノコでのトリップシーン、「沈黙」で薫子が失われた音楽を再生しようと音を集めて回る過程など。この本作でもアビシニアンと公園で暮らす2年あまりの生活の描写は、美しく力強い。

…とはいえ、この作者には分厚い長編を書いてほしい、という気持ちは変わっていないんだけどね。

7.5.2000

[book][い]「星虫」岩本隆雄:ソノラマ文庫(7/5)

2000/07/05

というわけで出ましたよ、星虫が!し、しかもイラストが鈴木雅久さん。これでいちげんさんへのつかみもバッチリだね!

改めて読み返したが、宇宙への憧れいっぱいないい話だねぇ。内容は甘く希望に満ち溢れていて、十年前と比べて年を取った今の僕にとっては青く小恥ずかしさを覚えもするのだが、それもまたよし。NHKでジュブナイル向けSFドラマにしたらぴったしな話と思うがどうだろうか。「六番目の小夜子」(のドラマ)も出来が良かっただけにね。とにかく絶対的にお勧め。読むべし!ですよ!

10年ぶりの復刊に伴いかなり加筆修正が加えられています。現時点での近未来に時代背景を修正したことによる、細かな設定の変更などなど。広樹が「Prolog」(コンピュータ言語)の製作者になっていることには笑いましたが…(は!ということは、なにげにパラレルワールド?)。ただ、主人公の友美の口調がすこしぎこちなくなっているのが気になるところ。作者久々の小説だからか作者が年を取ったからなのか分かりませんが、細かいセリフ周りの修正が功を奏しているとは思えなかった。

話によれば続編である「イーシャの舟」も復刊されるらしい。そして今年中に新作も発表される予定だとか。楽しみたのしみ。

7.27.2000

[book][お]「麦の海に沈む果実」恩田陸:講談社(7/27)

2000/07/27

「三月は深き紅の淵を」の第四章、「回転木馬」をモチーフに長編化された作品。作者がどこぞのエッセイでコメントしていた通り、70年代少女漫画(トーマの心臓とかあの辺〜まぁあれは男子校の話だけどね〜)の雰囲気に満ち満ちた、学園もの。

相変わらず緻密でストイックな文体に「ああ、恩田さんの小説はいいなあ」と耽溺しながらゆるゆると読んでいたのですが…最後の章の大どんでん返しにはまいった。「三月〜」のメタな終わり方は全然オッケィだったのだが、今回のこれはいただけなかった。もぉ、だいなし。うりゃ〜っとちゃぶ台をひっくり返したくなったよ。いや、ちゃぶ台なんて持ってないけどさ。

とはいえ、小説の質自体は保証します。あとは好き嫌いの問題で、それは読まなきゃ分からないよね。というわけで、読むべし。

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